こんにちは、ドラム講師の川島です。
以前から、ジャズドラマーのAntonio Sánchez(アントニオ・サンチェス)について調べていて、ずっと気になっていたことがあります。
それは、Sánchezに帰属されている「コードチェンジを感じさせる演奏をするのはドラマーの責任」という趣旨の言葉です。
この言葉を最初に聞いたとき、私は少し意味が分かりませんでした。
ピアノやギターであれば、Cmaj7ならC・E・G・B、G7ならG・B・D・Fというように、実際にコードの構成音を鳴らすことができます。
しかしドラムは基本的に音階を演奏する楽器ではありません。
もちろんタムには音の高さがありますし、チューニングによってある程度音程を作ることもできます。しかし一般的なドラム演奏で、ピアノのようにコードを鳴らしているわけではありません。
それなのに、なぜドラマーが「コードチェンジを感じさせる」ことができるのでしょうか。
また、Ari Hoenig(アリ・ホーニグ)がジャズのテーマのメロディーをドラムセットで表現することは、比較的イメージしやすいと思います。
メロディーが高くなれば高いタム、低くなればフロアタムというように、旋律の動きをドラムセット上の高低へ置き換えることができるからです。
では「コード進行をドラムで表現する」とは一体どういうことなのでしょうか。
今回いろいろ調べてみて、私自身かなり納得できる答えが見えてきました。
結論から言うと、ドラムでコード進行を表現するというのは、Cmaj7やG7の構成音をドラムで鳴らすことではありません。
コードがどこで変わり、どこへ向かい、どこで緊張し、どこで解決するのか。
その「コード進行が作る時間的な流れ」を、リズム、アクセント、音色、音域、音数、ダイナミクス、フィルインなどへ翻訳していくということです。
この記事では、この考え方をできるだけ難しい理論を使わず、実際のドラム演奏へ置き換えながら解説していきます。

- まず結論|ドラムでCmaj7やG7を鳴らすという意味ではない
- harmonic rhythmを理解すると意味が分かりやすい
- ドラマーは「コード」ではなく「コードの役割」を叩く
- フィルインはコード進行やフォームの「句読点」になる
- Antonio Sánchezは「曲のフォームの上」でドラムソロをする
- Evidenceのコード構成音をドラムで叩いているわけではない
- Ari Hoenigのメロディックドラミングとの違い
- Antonio Sánchezの「rhythmic melody」とは?
- モチーフをコード進行に合わせて発展させる
- 「ドラマーがコード進行を決める」は普通のジャズでは少し意味が違う
- しかし『Bad Hombre』では本当にドラムが先に音楽を決めている
- 「感じさせる・表現する・決める」の3段階で整理すると分かりやすい
- ではドラマーはコード進行を勉強した方がいいのか?
- 実際にやってみよう|コード進行をドラムで感じる6段階練習
- 上級編|ドラムから先に曲を作ってみる
- まとめ|ドラムはコードの「音」ではなく「動き」を表現できる
まず結論|ドラムでCmaj7やG7を鳴らすという意味ではない
まず最初に、「コード」と「コード進行」を少し分けて考えてみましょう。
例えばピアノでCmaj7というコードを弾く場合、
- C
- E
- G
- B
という構成音を同時に鳴らすことができます。
これがコードの「縦の情報」です。
一方で、音楽にはもう一つ重要な情報があります。
例えば、
Dm7 → G7 → Cmaj7
というコード進行があった場合、
「Dm7が鳴っている時間」
↓
「G7へ変わる瞬間」
↓
「Cmaj7へ解決する瞬間」
という時間の流れがあります。
これを音楽理論ではharmonic rhythm(ハーモニック・リズム)と呼びます。
少し難しそうな言葉ですが、簡単に言えば、
「コードがどのタイミングで変わっていくのか」
ということです。
ドラムはC・E・G・Bというコードの構成音をそのまま鳴らすことは苦手ですが、この「いつ変わるのか」については、とても強い影響力を持っています。
なぜならドラムは、音楽の時間そのものを作る楽器だからです。
つまり、かなり単純化して言うと、
ピアノやギターはコードの「縦の音」を直接表現できる。
それに対して、
ドラムはコード進行の「横の流れ」を強く表現できる。
と考えると、とても分かりやすくなります。
リズムを「1拍」「2拍」「3拍」「4拍」という時間軸で整理する考え方については、こちらでも詳しく解説しています。
harmonic rhythmを理解すると意味が分かりやすい
ここから実際の演奏を考えてみましょう。
例えば、次のようなジャズでよく使われる流れがあったとします。
| 1小節目 | 2小節目 | 3小節目 | 4小節目 |
|---|---|---|---|
| Dm7 | G7 | Cmaj7 | Cmaj7 |
ここでドラマーが最初から最後まで、ほぼ何も変えずに同じライドパターンを叩いたとします。
もちろん、それでもコード進行そのものはピアノやベースによって聞こえます。
しかし、コードが変化していく感覚を作る仕事の多くを、ピアノやベースに任せることになります。
では、ドラマーがコード進行を聞きながら演奏したらどうなるでしょうか。
例えばDm7では比較的落ち着いた演奏をしていたとします。
そこからG7へ入ったところで、
- スネアのコンピングを少し増やす
- バスドラムを加える
- 音数を増やす
- シンコペーションを増やす
- タムを使って音域を広げる
- 少しダイナミクスを上げる
といった変化を加えます。
そしてCmaj7へ入った瞬間にクラッシュを鳴らしたり、逆に一気に音数を減らしたりします。
すると聴いている側には、
安定
↓
緊張が高まる
↓
到着する
という流れが生まれます。
このときドラマーはG・B・D・FというG7の構成音を一音も演奏していません。
それでも、「何かが次へ向かっている」「ここで到着した」という和声的な流れを感じさせることはできます。
これが、今回の記事で一番大切な考え方です。

ドラマーは「コード」ではなく「コードの役割」を叩く
ここで、さらに一歩進めて考えてみましょう。
G7というコードをドラムで直接表現しようとすると、どうしても、
「G7だったら、どのタムを叩けばいいのだろう?」
という考え方になってしまいます。
しかし、そうではありません。
大切なのは、G7というコードがその曲の中で何をしているのかです。
例えばDm7 → G7 → Cmaj7という流れであれば、G7はCmaj7へ向かう強い方向性を持っています。
言い換えると、音楽がまだ落ち着いておらず、次へ進みたがっている場所です。
その「次へ進みたがっている感じ」をドラムで表現します。
例えば、
- 音数を増やす
- アクセントを増やす
- オフビートを使う
- スネアのコンピングを活発にする
- ライドのベルを使う
- タムまで使って音域を広げる
- ロールなどで持続的な緊張を作る
といった方法があります。
そしてCmaj7へ解決したところでは、
- クラッシュで到着点を示す
- 音量を下げる
- 音数を減らす
- 元のライドパターンへ戻る
- あえてスペースを空ける
という方法があります。
ここで誤解してほしくないのは、「ドミナントでは音数を増やさなければならない」というルールではないことです。
逆に、緊張感のある場所で突然何も叩かなくなることで、ものすごい緊張を作ることもできます。
つまり、コードネームとドラムの楽器を一対一で対応させるのではありません。
そのコードが音楽の中で果たしている役割を、自分のドラムの表現へ置き換える。
これが重要です。

ドラムのフレーズは、リズムだけでなく音色、手順、フィルイン、ダイナミクスなど複数の要素から成り立っています。ドラムフレーズを構成する要素についてはこちらで整理しています。
フィルインはコード進行やフォームの「句読点」になる
この考え方が一番分かりやすく現れるのがフィルインです。
初心者の頃は、フィルインを「リズムの途中に入れるカッコいいフレーズ」や「おかず」のように考えることが多いと思います。
もちろんそれも間違いではありません。
しかし音楽的に考えると、フィルインにはもっと重要な役割があります。
それが「これから音楽が変わりますよ」と知らせる役割です。
例えば4小節目の最後、4拍目の裏あたりから、
スネア
↓
タム
↓
バスドラム
と短いフィルを入れ、次の小節の1拍目でクラッシュを鳴らしたとします。
するとフィルインを聞いた瞬間に、聴き手も共演者も、
「次に何かが来る」
と感じます。
そして1拍目のクラッシュで、
「ここに到着した」
と感じます。
文章で例えるなら、フィルインは句読点に近いものがあります。
ずっと文字が続いていたら、どこで文章が区切られているのか分かりません。
しかし「、」や「。」が入ることで、文章の構造が分かります。
ドラムも同じで、フィルやアクセントを適切な場所へ置くことで、曲の構造が見えやすくなります。
ジャズ教育者のJim Blackleyも、ドラマーが曲のstructure、chord changes、bass lineを聞き、フレーズをpunctuate=句読点を打つように区切ることを重視していました。
ただし、コードが変わるたびに毎回クラッシュを叩けばいいわけではありません。
すべてを強調すると、逆に何が重要なのか分からなくなります。
4小節や8小節のまとまり、ブリッジの入口、ターンアラウンド、トニックへの解決など、曲にとって重要な場所を選んで強調することが大切です。

フィルインの本来の役割についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
Antonio Sánchezは「曲のフォームの上」でドラムソロをする
ここまでの話を理解するうえで、とても分かりやすいのがAntonio SánchezによるThelonious Monkの「Evidence」を使った練習です。
Sánchez自身が公開している演奏では、「Evidence」のフォームの上でドラムソロを展開しています。
ここで大切なのは、これは単にクリックに合わせて自由に32小節叩いているわけではないということです。
「Evidence」は32小節のAABAフォームを持っています。
つまり頭の中では、
A1
↓
A2
↓
B
↓
A3
↓
次のコーラス
という音楽の位置が存在しています。
Sánchezはそのフォームの上で演奏しています。
さらに「Evidence」の特徴であるシンコペーションしたメロディーも重要な材料になります。
ですから実際に聞こえている音はスネア、バスドラム、タム、シンバルだけだったとしても、演奏者の内側ではメロディー、コード進行、フォームが動き続けているわけです。
これはジャズドラムを考えるうえで非常に重要なポイントだと思います。
優れたドラマーは、単純に、
「今13小節目だから、あと19小節……」
という計算だけでフォームを維持しているわけではありません。
もちろん小節数を把握する能力は必要です。
しかし最終的には、頭の中で曲そのものが流れていて、その曲の中の現在位置を聞きながら演奏する状態へ持っていく必要があります。

譜面を目で追うだけでなく、曲の流れそのものを覚えて演奏する方法についてはこちらの記事でも解説しています。
Evidenceのコード構成音をドラムで叩いているわけではない
ここは今回の話で特に誤解しやすいところです。
例えば「Evidence」の中でE♭maj7が鳴っている場所があるとしても、
「E♭maj7の3度はGだから、このスネアの音がGを表している」
という話ではありません。
重要なのは、E♭maj7が存在する時間的位置をドラマーが失っていないことです。
さらに、
- その曲固有のメロディーのリズム
- フレーズの区切り
- コードが変わる場所
- AABAのフォーム
- ターンアラウンド
- 緊張と解決
を理解し、それに反応しながらドラムを演奏します。
私には、これは「コード進行の地図の上をドラムで歩いている」というイメージが一番近く感じます。
ドラムだけを切り取って聞いて、「今鳴っているコードはG7です」と必ず判別できるわけではありません。
ドラムが直接伝えているのは、もっと大きな、
不安定
↓
方向づけ
↓
到着
という音楽の動きです。
具体的なコードのルートやメジャー・マイナーといった情報は、ベースやピアノ、メロディー、そして聴き手がすでに知っている曲の記憶によって補われます。
Ari Hoenigのメロディックドラミングとの違い
ここでAri Hoenigの話につなげると、この違いがさらに分かりやすくなります。
Ari Hoenigは、いわゆるMelodic Drummingを体系的に研究しているドラマーとして知られています。
Hoenigの考え方では、大きく、
phrasing
↓
contour
↓
actual pitch
という段階で考えると理解しやすくなります。
まずはメロディーのリズムを叩く
最初からタムを完璧な音程にチューニングする必要はありません。
まずメロディーをスネアだけで叩きます。
例えばCharlie Parkerのテーマを聞いて、
「タータ・タタター・タン」
というようなフレージングを、スネアだけでコピーします。
この段階では音程はありません。
しかしリズムやアクセント、休符の位置が正確なら、知っている人には元のメロディーがかなり感じられます。
次にメロディーの輪郭をドラムセットへ置き換える
次にcontour、つまりメロディーの上下の輪郭を表現します。
例えば、
低い
↓
中くらい
↓
高い
↓
高い
↓
中くらい
↓
低い
というメロディーだった場合、
フロアタム
↓
スネア
↓
ハイタム
↓
ハイタム
↓
スネア
↓
フロアタム
というようにドラムセット上へ配置できます。
この段階でも、元の音程を正確に演奏しているわけではありません。
しかし「メロディーが上がった」「下がった」という動きは表現できます。
さらにactual pitchへ進む
そしてHoenigのアプローチでは、さらにドラムをチューニングして、実際の音程に近づけていく段階があります。
ここまで進むと、一般的な「ドラムは音程を扱わない楽器」というイメージからかなり離れてきます。
しかし重要なのは、Hoenig自身のアプローチでも、いきなりactual pitchから始まるわけではないという点です。
リズム → フレージング → メロディーの輪郭 → 音程
という順番で考えられます。

また「Anthropology」のような誰もがよく知っているテーマをドラムセットで認識できる形で演奏すれば、聴き手の頭の中には、そのメロディーと一緒に背景のコード進行まで浮かんできます。
これはドラムが和音を直接鳴らしたというより、メロディーによって聴き手の中にコード進行を呼び起こしたと考えた方が正確です。
Antonio Sánchezの「rhythmic melody」とは?
Antonio Sánchezは別の英語インタビューの中で、
“Melodies don’t have to be pitch melodies.”
と話しています。
日本語で分かりやすく言えば、「メロディーは、必ずしも音程のあるメロディーだけではない」という考えです。
さらにSánchezは「rhythmic melodies」という考え方にも言及しています。
これは非常にドラマーらしい発想です。
例えば、
タン・タタ・タン
という短いリズムを一つ作ったとします。
最初はスネアだけで演奏します。
次は同じリズムをハイタムとスネアへ移します。
次はバスドラムとフロアタムへ広げます。
さらに次は音数を増やしたり、アクセントを変えたりします。
そして最後に、最初のスネアの形へ戻ります。
すると音程による「ドレミ」のメロディーがなくても、
テーマの提示
↓
展開
↓
さらに発展
↓
テーマへ回帰
という音楽的な物語ができます。
これがrhythmic melodyを理解する一つの方法です。
Ari Hoenigがメロディーの輪郭からactual pitchまで近づいていくアプローチだとすると、Sánchezではリズムやモチーフそのものをメロディーのように発展させる考え方が非常に重要になります。

モチーフをコード進行に合わせて発展させる
ここまでの内容を、もう少し具体的なドラム演奏へ落としてみましょう。
例えば、
スネア → スネア → バスドラム
という短いモチーフを一つ作ったとします。
安定している場所では、そのまま、
スネア → スネア → バスドラム
と演奏します。
少し動き始める場所では、
スネア → ハイタム → バスドラム
と変化させます。
さらに緊張感が強くなる場所では、
ハイタム → フロアタム → スネア → バスドラム → バスドラム
と、音域と密度を広げます。
そして解決したら、
スネア → スネア → バスドラム
という最初の形へ戻ります。
これも「ドミナントではこのフレーズを叩かなければいけない」という決まりではありません。
一つのアイデアが、音楽の緊張に合わせて変化し、解決したときに元へ戻る。
そうすることでドラムソロにも物語が生まれます。
「ドラマーがコード進行を決める」は普通のジャズでは少し意味が違う
ここで「表現する」と「決める」という言葉を分けておいた方がよいと思います。
例えばジャズスタンダードで、すでに、
Dm7 → G7 → Cmaj7
というコード進行が決められていたとします。
ドラマーが演奏中に、
「今日はG7をやめてE♭7にしよう」
と勝手にコード進行を変更しているわけではありません。
通常のジャズ演奏でドラマーが大きく関わるのは、
- コードが変わる時間を明瞭にする
- フォームを感じさせる
- フレーズの終わりを示す
- 緊張と解決を強調する
- 次のセクションを予告する
- 共演者へキューを出す
といった部分です。
そのため、普通のジャズスタンダードについて「ドラマーがコード進行そのものを決めている」と言ってしまうと、少し強すぎます。
より正確には、
「すでに存在するコード進行を、時間の中でどのように感じさせるのかに大きく関わっている」
と考えた方がよいでしょう。
しかし『Bad Hombre』では本当にドラムが先に音楽を決めている
では「ドラマーが決める」という言葉が、より文字どおりの意味になる場合はあるのでしょうか。
その非常に面白い例がAntonio Sánchezの『Bad Hombre』です。
一般的な作曲では、
メロディーを作る
↓
コードを付ける
↓
曲の構成を作る
↓
ドラムやアレンジを付ける
という流れになることがあります。
ところがSánchezは『Bad Hombre』について、ドラムを先に「礎石」として置き、その上に音楽を作っていったという趣旨を語っています。
これをドラム側から考えてみましょう。
最初にドラムを作るということは、
- 何小節で一つのフレーズにするか
- どこでアクセントを置くか
- どこで音数を増やすか
- どこをクライマックスにするか
- どこで一度止まるか
- どこから次のセクションへ行くか
といった構造が、先に決まるということです。
そのあとでコードを付けようとすれば、コードもその時間構造の影響を受けます。
例えばドラムが4小節目で大きなピークを作り、5小節目で急に静かになっているなら、ハーモニー側もそこへ何らかの変化や解決を置きたくなる可能性があります。
つまりドラムが、
「次のコードはC7です」
とコードネームそのものを指定しているわけではありません。
しかし、
「ここまで一つの和声領域が続き、ここで何かが変わる」
という時間構造は先に決めることができます。
これがharmonic rhythmとformをドラム側から決めるという意味です。

「感じさせる・表現する・決める」の3段階で整理すると分かりやすい
ここまでの話を整理すると、ドラムとコード進行の関係は3段階に分けると非常に分かりやすくなります。
| レベル | 意味 | ドラムが行うこと | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 1.感じさせる | コード境界やフォームを分かりやすくする | フィル、クラッシュ、コンピング、音色変更 | 次の1拍目へ向けてセットアップを入れる |
| 2.表現する | メロディーやハーモニーの動きをドラムへ写す | リズム、音域、モチーフ、密度、ダイナミクス | 緊張する場所でモチーフを発展させ、解決で元へ戻す |
| 3.決める | 和声イベントが起こる時間や方向へ影響する | harmonic rhythm、form、cue、反復周期 | ドラム先行で曲の時間構造を作る |
この3つを混同しないことが大切です。
通常のジャズスタンダードでは、主に1と2です。
一方、『Bad Hombre』のようにドラムから作曲していく場合は、3まで踏み込んできます。
ではドラマーはコード進行を勉強した方がいいのか?
ここまで読むと、
「ではドラマーもピアニストと同じくらいコード理論を勉強しなければいけないのか?」
と思うかもしれません。
私は、必ずしも最初からそこまで必要だとは思いません。
もちろんコードネームや和声理論を勉強すれば、ジャズを理解するうえで大きな助けになります。
しかし今回の話で一番重要なのは、コードを紙の上で分析できることだけではありません。
耳で曲の流れを聞けることです。
例えば、
- 今どこにいるのか
- コードがどこで変わったのか
- どこから緊張が始まったのか
- どこで落ち着いたのか
- ブリッジはどこから始まるのか
- ターンアラウンドはどこなのか
- 次のコーラスはどこから始まるのか
を感じ取れることです。
これはジャズだけではありません。
ロックやポップスでも、AメロからBメロ、サビへ行くときにコードもアレンジも変化します。
その変化に合わせて、ハイハットからライドへ移ったり、クラッシュを入れたり、フィルインを入れたりすることがあります。
実は私たちは普段から、かなり似たことを行っています。
ジャズでは、それをさらに細かく、コード進行やフォームのレベルまで聞いていくわけです。
まず曲そのものを耳の中へ取り込む練習として、耳コピは非常に役立ちます。
実際にやってみよう|コード進行をドラムで感じる6段階練習
最後に、この考え方を実際のドラム練習へ落とし込んでみましょう。
最初からAntonio Sánchezのようなソロを目指す必要はありません。
簡単なところから順番に練習していけば大丈夫です。
STEP1|ジャズスタンダードを1曲だけ決める
まず曲を一つ決めます。
「Autumn Leaves」のような、テーマとコード進行を繰り返し聞きやすい曲でも構いません。
大切なのは、たくさんの曲を中途半端にやるより、まず一曲のフォームを深く覚えることです。
STEP2|テーマを歌いながらライドだけを叩く
次に、ドラムセットで派手なことをせず、ライドシンバルだけを叩きます。
その状態で頭の中、あるいは実際に声を出してテーマを歌ってください。
目的は、
「何小節目かを数える」ことから「今、曲のどこにいるかを聞く」ことへ変える
ことです。
途中から再生しても、
「今はAの後半だな」
「もうすぐブリッジだな」
と分かる状態が理想です。
STEP3|コードが変わる場所を小さく演奏する
次に、コードが変化する瞬間だけ、スネアやバスドラムを小さく加えてみます。
ただし、すべてのコードチェンジを大げさに強調しないでください。
まずは、
- 4小節の区切り
- ブリッジへ入る場所
- ターンアラウンド
- トニックへ戻るところ
など、大きな場所だけで十分です。
「コードチェンジを演奏する」というより、曲の句読点を演奏する感覚です。
STEP4|ii-V-Iで緊張と解決を作る
次は、
Dm7 → G7 → Cmaj7
のようなii-V-Iを使います。
最初はDm7を普通に演奏します。
G7に入ったら、少しだけコンピングや音数を増やします。
Cmaj7へ解決したら、クラッシュで着地するか、逆に音数を減らします。
ここで大切なのは、
「G7だからこのフレーズ」
と暗記することではありません。
緊張 → 解決
という感覚を、自分なりのドラム表現へ変換してください。
STEP5|テーマのリズムだけをスネアで叩く
次はAri Hoenig的な練習です。
メロディーの音程は無視して、テーマのリズムだけをスネアで叩きます。
例えばメロディーが、
「ター・タタ・ターン」
なら、そのままスネアで、
「タン・タタ・タン」
と演奏します。
これだけでも休符、アクセント、フレーズの長さが身体に入ってきます。
慣れてきたら、メロディーが高くなるところをハイタム、低くなるところをフロアタムへ移してみましょう。
「Autumn Leaves」であれば、例えばメロディーの輪郭を、
低い → 中 → 高い → 中 → 低い
というように捉え、それを、
フロアタム → スネア → ハイタム → スネア → フロアタム
のようにドラムセット上へ配置してみます。
この時点では実際の音程を再現する必要はありません。
STEP6|ピアノやベースなしで1コーラス演奏する
最後は、コード楽器を止めてドラムだけで1コーラス演奏します。
しかし頭の中では、
メロディー
+
コード進行
+
フォーム
を止めないでください。
例えば32小節の曲なら、単純に32小節を数えて終わるのではなく、
A1
↓
A2
↓
B
↓
A3
という曲の場所を感じながら叩きます。
そして次のコーラスの1小節目へ、自然につながるように演奏します。
ここまでできると、ドラムソロが単なるフレーズの羅列ではなく、曲そのものを材料にしたソロへ変わってきます。
上級編|ドラムから先に曲を作ってみる
さらに興味があれば、『Bad Hombre』の考え方を簡単な練習として体験することもできます。
まずコードもメロディーも考えず、8〜16小節程度のドラムだけを録音します。
例えば、
1〜2小節:静か
3小節:少し発展
4小節:フィル
5〜6小節:グルーヴ
7小節:変化
8小節:クライマックス
9小節:再び静か
10〜11小節:発展
12小節:停止
というように、ドラムだけで時間構造を作ります。
そのあとでピアノやギターを使い、そのドラムに合うコードを付けてみてください。
すると、ドラムが先に作った、
- フレーズ長
- ピーク
- 休止
- セクション境界
によって、コードを変えたくなる場所がある程度決められてくることが分かると思います。
これを実際にやってみると、「ドラムがharmonic rhythmを作る」という意味を、理屈ではなく体感しやすくなります。
まとめ|ドラムはコードの「音」ではなく「動き」を表現できる
今回は、Antonio Sánchezの考え方を出発点に、「ドラムでコード進行を表現するとはどういうことなのか」を考えてきました。
最初は私自身、
「音階のないドラムで、どうやってコード進行を表現するのだろう?」
というところがよく分かりませんでした。
しかし重要なのは、コードそのものとコード進行を分けて考えることでした。
ドラムでコード進行を表現するというのは、コードの構成音を叩くことではありません。
曲の中で起きている、
安定
↓
緊張
↓
方向
↓
解決
↓
次のフレーズ
という運動を聞き取り、それを、
- リズム
- アクセント
- 音色
- 音域
- ダイナミクス
- コンピング
- フィルイン
- モチーフ
- シンバルの選択
- 音数と余白
へ翻訳するということです。
つまり、
ドラムはコードの「縦の音」を直接鳴らす楽器ではなくても、コード進行の「横の流れ」を表現することができる。
ということです。
そしてAri Hoenigのように、メロディーのリズムや輪郭、さらに実際の音程までドラムセットへ移していけば、メロディーを通して背後にあるハーモニーまで想起させることができます。
さらにAntonio Sánchezのように、rhythmic melodyやモチーフを発展させながらフォームの上で演奏すれば、コード楽器が鳴っていない瞬間でも、曲の構造を失わずにドラムソロを展開することができます。
最終的にドラマーがコード進行を勉強する目的は、ドラマーがピアニストになることではありません。
今、自分が曲のどこにいるのか。
音楽がどこから来て、どこへ向かっているのか。
どこで緊張し、どこで解決するのか。
それを耳で聞き、その流れにドラムで反応できるようになることです。
そこまで聞こえるようになると、同じライドパターン、同じコンピング、同じフィルインを演奏していたとしても、演奏の意味は大きく変わってくると思います。
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